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今週は、【18年7月のヲタ・与太・編集室】を配信します。
オタク芸人 サンキュータツオ責任編集
二次元を哲学するトークバラエティ音声マガジン
『熱量と文字数』
出演:
サンキュータツオ(米粒写経)
国井咲也(兵器研究家)
ひがもえる
◆基本情報◆
『熱量と文字数』は毎週水曜日更新予定です。
Twitterアカウント:@netsumoji
ハッシュタグ:#netsumoji
音楽:金子麻友美 @kanek0mayumi
◆コーナー◆
・投稿コーナー「ブヒ部」
最近あなたがブヒった、バカバカしい妄想を教えてください。あのキャラとのこういうシーン、憧れのあの娘とこんな会話をした!など。
・投稿コーナー「この1話!」
その月のベストな回について、こういうところが素晴らしかった!痺れた!憧れた!などなど、熱量の伝わるメールを募集しています。
・おたより、ご意見、ご感想、ご要望、ご相談
◆ライブ(公開収録)のお知らせ◆
『月刊 熱量と文字数』
【日程】7月19日
【会場】秋葉原 アートメイドカフェ『シャッツキステ』(銀座線「末広町」駅より徒歩1分。JR秋葉原駅より徒歩7分)
コメント
「この一話」ということで、ゲゲゲの鬼太郎「ずんべら霊形手術」を一押しします。
2chやtwitterなどネット各所をざわつかせた問題作なので、ご存知の方も多いかと思います。
きっとこのメール以外にもこの話へのメールがあと百通は来ていることでしょう。
【あらすじ】
あらすじを簡単にいうと、この話の主人公は房野(ぶさの)きららちゃんという人間の女の子。
綺麗になりたいという願望が人一倍強い子で、常にフリフリの服に身を包み、体型もよく、腰まで届く黒髪ロング。
ただ一つ問題があり、顔だけがすごくすごくブサイクでした。本人が気にしているだけなどというレベルではなく、学校では廊下を歩いているだけでみんなから笑われ、通りすがりの小学生に「なんだあれ妖怪女だ」と指を指されるほど。
売出し中の男性アイドル、ユウスケの出待ちをしていても、周りのファンたちに蹴散らされてしまいます。
そんなきららちゃんですから基本は引きこもりがちですが、宅配便の人にまで驚かれ、とうとう耐えきれずに自分の母親に「あんたのせいだ!」と叫んで家を出てしまいます。
そこでばったり出会った妖怪ずんべらに霊形手術を施してもらい、美少女の顔に取り替えてもらいます。
手術といってもベリベリ剥がしペタッと貼付けるだけで全く無害です。
ちなみに、ここでゲゲゲ恒例ヒトダマの天麩羅が出てきます。今回も美味しそうでした。
さて、美人になったきららちゃんの日常は一変します。
学校では男女どちらからもモテモテになり、街を歩けば芸能界にスカウトされます。
ユウスケの出待ちに行けば、他のファンたちが気圧されるほどですが、ここで雲行きが怪しくなってきます。
ユウスケは一目できららちゃんだと分かります。
「どうして分かるの…?」「わかるよ。だっていつも見てたから…あっ(赤面)」
というどうでもいいやりとりのあと、ユウスケは言います。
「やっぱり整形とか?顔なんてどうでもいいのに」
これを聞いた途端、きららちゃんの顔がさっと曇ります。
「顔なんてどうでもいい…?わたしはそうは思わない!」
そう言って自宅へ逃げ帰りますがさらに事態は急変、なんと顔がなくなりのっぺらぼうになります。
鬼太郎たちとともに再度ずんべらを訪れるきららちゃん。
そこで今まで貼付けていた顔が死人から剥ぎ取った顔だと知ります。
もとの顔を返せと鬼太郎が言うと、意外にもずんべらはあっさり返します。
「やけに物分りがいいな…目的は何なんだ」
「そんなものありはしないさ。私はただ、美に狂う女たちがたまらなく愛おしいのさ。その底なしの欲望がね」
ところがきららちゃんはもとの顔を受け取ろうとしません。
「死人の顔ですましてるより、自分の顔で思い切り笑った方がよっぽど幸せと思うけど」と猫娘が言いますが、きららちゃんはまた逃げ出します。
ここでなぜかユウスケが、夜の川原できららちゃんを見つけ、駆け寄ります。
「僕は外見に関係なくあなたのことが」
と薄っぺらな言葉をかけるユウスケに、きららちゃんは哄笑を浴びせます。
「勘違いしないで。あんたのことなんか好きじゃない、あんたの隣にいる私が好きなだけ。あんたなんか置物と同じ」
これには駆けつけた鬼太郎たちも言葉をなくします。
「かわいくなって初めて世界が動き出した。それまで私は死んでたの。もう生きながら死ぬのはイヤ!!」
そんなきららちゃんのことを、ユウスケはそっと抱きしめます。
「つらかったね、きららさん。できることならあなたの心を癒やしてあげたい…きららさんの全てを、受け止めたい」
強く、きららちゃんを抱きしめるユウスケ。
「どうして、そこまで…?」「これまであなたが僕を支えてくれた。今度は僕の番だ」
そっと離れて、鬼太郎からもとの顔を受け取ったきららちゃんは夜空を見上げで、心のなかでつぶやきます。
(どうして気づかなかったんだろう。私、幸せだったの)
ユウスケが力づけるように頷きます。
鬼太郎たちも力づけるように頷きます。
BGMも最高潮に感動を煽ります。
目玉の親父が「これで一件落着じゃな」と言って暗転。
…ですが、もちろん今期の鬼太郎はこれで終わるような鬼太郎じゃありません。ある意味ここまでは前フリです。
別の日、ユウスケが出てくるときららちゃんがいません。
他の取り巻きたちと街へと歩くユウスケがふと街頭テレビを見ると、なんとそこには海外映画で鮮烈なデビューを果たして颯爽と赤絨毯を歩くきららちゃんが映っています!
驚愕するユウスケたち。ふと見ると、横の道を行くきららちゃんの後ろ姿。
「きららさん!」
思わず呼びかけるユウスケにくるりと振り返り、きららちゃんのアカンベエーの顔で、この話は終わりです。
そう、霊形手術をしたあの美少女の顔で。
【感想】
私の感想は一言でいうと、「痛快」でした。「顔なんてどうでもいい」という連中への小気味良いカウンターに胸のすく思いがしました。
だいたい、そんなこと言う連中は必ず顔で苦労などしたことないじゃないですか。
そんな奴らにしたり顔で空疎なお説教をされたところで、より深く断絶を感じるだけです。
この話は「持つ者」と「持たざる者」のわかりあえなさが主題だと私は思います。そして「持たざる者」が一矢報いたのだと思います。
きららちゃんは今後、ずんべらに顔をメンテしてもらいながら生きていくのでしょう。
ひょっとしたらもう、人間でなく妖怪になっているのかもしれませんね。それもまた良しです。ラストのアカンベーは画面を通して我々にこそ向けられているのです。
いつの日にか、きららちゃんにも娘が産まれるかもしれません。やがて「あんたのせいだ!」と娘に言われるかもしれませんね。
その時はさらっとずんべらを紹介するのでしょうか。あるいは自分が死ねば顔を娘にゆずれますね。いろいろ妄想が膨らみます。
いやーそれにしても今期の鬼太郎は面白いですね。鬼太郎史上最高傑作となりうる出来栄えです。
今回のずんべら以外にも、幽霊列車とか枕返しとか語りたくなる話はたくさんあります。
もしまだ見ていない人がいたら、絶対に見てほしいです。名作と保証できます。
子供向けの配慮をしつつも、決して子供だましではなく大人が見てもまったく見事にできています。
むしろ子供には理解できないのではないかと思わせるシナリオもあれば、描くことに躊躇しそうなシーンもあります。
子供向け番組とは考えられないほど普通に人が死ぬ描写もあります。
季刊「怪」のインタビューで演出の角銅(かくどう)さんが言ってましたが、今回の鬼太郎は怖くする。遠慮はしないと監督も言ってたそうです。
今後も楽しみですね。本当に今見るべき作品です。ぜひ見てください。
追伸
1968年に第一期が放送されてから今年でちょうど50年目となるゲゲゲの鬼太郎。
もしよかったら熱量と文字数で特集してみませんか
なんなら水木しげる特集でもいいと思います。
ご一考くださると幸いです。それではー。